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モーターボートに、櫓

(『桜探しに出かけてみたら…9』のつづき)
…というわけで、一応、高速滑走船型のはしくれである我が艇に、櫓をつけるという、蓮っ葉なことをしてみました。

何度か触れたように、和船好きとしても、櫓という推進具に惹かれるものがあり、和船の所有がかなわないのなら、せめて櫓だけでも、思うさまいじってみたい…という気持ちが、昔からあったのです。

このご時勢ですから、現在も櫓をあつらえてくれるところなど、なかなか見つかりません。
一時は自作も考えたのですが、一年ほど前、たまたま、櫓の受注製作をしている船具店、「松令三商店」を知り、喜び勇んで、メールで問い合わせてみました。

モーターボートに櫓をつけるという、私の無茶な要求にもかかわらず、「夢のある話だ」と興味を持っていただき、一緒に取り付け方を考えてくださるなど、とても丁寧な応対だったので、長年の夢をかなえようと、お願いしてみることにしたのです。

FI2618010_2E.jpgこれが、我が愛しの櫓、全体像です。

櫓刃(ロバ。ロシタとも)と呼ばれる、水に入る部分は長さが3m、手前の太い櫓腕(ロウデ)は、バランスウェイトと握りを兼ねた部分で、長さ1.5m、合計した全長は4.5mあります。梱包を解いた直後は、「こんなに大きいもの、うまく扱えるかなあ…」、というのが第一印象でした。

ムクの樫材から削り出したものですから、当然ではありますが、ずっしりと重く、慣れるまで取り扱いに難渋したものの、さすが旧海軍御用の職人さん、肌触りもなめらかで、いっぺんでほれ込んでしまう素晴らしさでした。これで、熟練者なら、数tの積載量がある舟を、難なく取り回せるのですから、櫓の生み出す推進力というのは大したものです。

FI2618010_3E.jpg購入の決め手は、何と言ってもこの、ロバとロウデが、工具なしで分解できる構造にありました。
製造元の商品名では「簡単脱着式櫓」と呼ばれており、ご覧のナット一個で、分解・組み立てが容易にできるのです。ナットは落としてしまわないよう、スイベルを介して鎖で結んであるのも親切です。

寸法を見てみると、ロバは甲板上に斜めに立てかければよく、ロウデはカディ(船室)の中に入るので、艇内へ完全収納できることがわかりました。

FI2618010_4E.jpg支点となる鉄製の櫓杭(ログイ、ロベソとも)は、なじみのボートサービスに依頼して、トランサム(船尾)の左舷寄りに取り付けてもらいました。

ログイの先端は玉状になっており、これが鋳鉄製のイレコとがっちり噛み合い、私のような初心者が漕いでも、抜けて櫓を流したり、漕ぎ手が落水したりしないように工夫されています。

この構造は、旧軍で、櫓の経験のない兵隊さんでも、短期間で漕ぎ方を習得できるよう、考えられたものだとか。

ちなみに、陸海の自衛隊でも、一部で櫓漕の訓練は行われています。海上はともかく、なぜ陸上が? と思われるかもしれませんが、施設科部隊(工兵)では、渡河作戦の必要があるためで、基本の一つとして、旧軍時代から櫓漕を教えているそうです。
実用ではすっかり減ってしまった櫓も、自衛隊が止めない限り、需要が絶えることはなさそうですね。

なお、通常の櫓は、以前もご紹介したこの道の大先達、新考案の櫓を研究・自作されているGL-Laboの、「本物の『櫓‥実物と妙技』をこの目で見る」で、掲載されている写真にあるように、ログイは位置決めのためのものに過ぎず、イレコの曲面全体で、荷重を負担するような構造になっており、私の櫓とは、かなり仕組みが異なるのです。

和船友の会の、会員の方のお話では、私の櫓のような型のログイ/イレコは、関東ではあまり見られず、瀬戸内など関西に多いようだ、とのことでした。なるほど…。

FI2618010_5E.jpgまあ、そんないきさつで、櫓つきモーターボート就航とあいなり、さっそく水路行の道々に、練習に励むこととなりました。写真は、旧中川での練習風景です。

櫓の取り付けを考え始めたころから、モーターボートの船型が、櫓漕に適さないことは、容易に想像できました。
長さが短く、幅の広い船体は方向安定性に欠けるでしょうし、船体前半に、フロントグラスとカディが立ち上がっているときては、風圧側面積をかせいでいるようなものだからです。

実際に漕いでみると、方向安定はともかく、風の影響はかなりのもので、微風でも船首がたちまち風落し、しかも一度回されると、艇が重いということもあり、私の乏しい腕力(泣)では、保針すら難しいのです。
小型和船が、風の影響を受けないよう、舷側を低く均一にしており、また水の抵抗を少なくし、直進性を良くするため、縦横比の大きい、細長い船体である理由が、身をもって理解できました。

こうなると、練習できる場所も限られてきます。この約1年、方々で漕いでみて、我が艇の櫓走に適した水路は、以下のようなところだというのがわかりました。

①直線区間が少なく、カーブがあって見通し距離の短いところ。
②幅があまり広くなく、両岸は高い土手や建物が続いているところ。
③流れがなく、動力船の通航が少ないところ。

真っすぐで幅の広い水路は、それだけ風の通り道になりやすいので、うまくありません。風除けとなる建物がないのも考えものです。流速が速いところ、引き波があるのももってのほか…イヤ、わがまま放題の子供みたいなヘタレぶりですが、ミスマッチ満載の櫓走艇としては、致し方ありますまい。

この条件にかなう水路は、旧中川、大横川(旧大島川の区間)、汐浜運河の東端部などで、特に旧中川が良かったのですが、日曜・祝日は閘門がお休みで、入れないのが痛いところです。

そんな面倒はあるものの、櫓漕を始めてからは、なじみの水路も、櫓走のしやすさといった視点で見るようになり、機走している時とは、また違った世界が広がったように思えます。
ロウデの滑らかな手触りに陶然となり、ハイオ(櫓の跳ね上りを押さえる綱)のきしみに、押送舟や小早など、江戸の櫓走舟に思いを馳せる、静かで、幸せなひとときです。

(19年5月13日~9月24日撮影)

(この項おわり)