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船体寸法と水路

FI2617953_1E.jpg毎度当たり前のことで、恐縮ではありますが…。水に浮いて移動する乗り物である以上、それを浮かすに足るだけの、水の深さがあるところを選んで、走らねばなりません。

海図でも、水深は重要な情報として扱われています。まして、大海よりはるかに浅いとわかっている、川や運河を航くときにおいておや…。というわけで、川走りを始めてこの方、頭から片時も離れなかったのは、これから通る水路の水深と、自艇の喫水(船体の水面下にある部分)でした。

その後、母港を東京に移し、都内の水路を走り込むにつれて、橋の桁下が極端に低いところ、同様に水路幅が狭いところを通るときは、喫水だけでなく、各部の寸法を頭に入れておかないと、座洲と同じくらいの危険があることが、わかってきました。
この点、海を航行する艇との大きな違いであり、川走りならではの面白さが、味わえる部分でもあります。

まあ、このあたり、今までも、水路の紹介のたびに騒いでいるので、皆さんもお気づきかとは思いますが、今回は、水路と船体の各部寸法の関係について、メモ的に書き散らしてみたいと思います。

FI2617953_2E.jpg言葉だけでは説明しにくいので、再びポンチ絵を描いてみました。適当に描いたものですから、「こんな艇は実在しない!」などのツッコミはご勘弁ください。ちなみに、私の艇がモデルではありません。

ご覧のとおり、船外機艇というのは、喫水の一番深いところが、Aの船外機そのものになります。
構造上、水面下にひそむ岩や杭などが、船体自身の喫水・Bをクリアしても、後ろでゴツンとやってしまう危険があるわけで、この点、排水量船(漁船や商船など、動いているときと停まっているときの姿勢が変わらない船)のような、船底より上に舵やプロペラが位置している船とは、違った気遣いが必要ではあります。

Cの、水面上の高さは、橋や水門など、水面上に低く立ちはだかる、障害物の多い街場の水路では、喫水同様に重要な位置を占める寸法です。全高が高ければ高いほど、行動範囲は制限されてしまうことになります。

以上に挙げた3つは、搭載する人員や荷物の多少によって、若干変化することは言うまでもありません。逆に、底がつかえてしまうときは、人や積荷を一旦陸揚げしたり、また、橋にぶつかりそうなときは、逆に積荷を増やすような方法も、考えられるわけです。

水運が盛んだった時代、潮時とにらみ合わせ、艀の積荷の量を調整して、低い橋や浅瀬を通過させるのは、船頭の腕の見せどころでしたし、空船を曳いておき、浅瀬にかかると本船の荷を移して、喫水を上げる方法は、利根川筋でも古くから行われていたそうです。

残るDとEですが、これは水路幅の狭いところで、転回する必要に迫られた際、やはり知っておいて損はないな、と思った寸法です。
Eの全長については、言うまでもなく、これが水路幅より大きければ、そのまま後進するほかなくなるわけです。

Dの喫水線長は、船首部分を差しい引いて、転回できる環境にあるときに役立ちます。例えば北十間川のように(過去の記事『北十間川西端部…3』参照)、護岸の高さが水面に近い場合や、また水面下ぎりぎりのところに、基礎護岸などが沈んでいるときは、船首を陸上に突き出して艇を回すことができ、その分有効長がかせげるわけです。

参考までに、私の艇の各部寸法を掲げると、以下のとおりになります。
実測しづらいところは、メーカーに出してもらった、図面から割り出しました。
A. 0.65m
B. 0.25m
C. 1.5m
D. 5.4m
E. 6.5m


FI2617953_3E.jpgAの寸法が0.65mだからといって、水深は1m近く必要なのかというと、そうでないのが船外機のいいところ。
要は、船外機自身を、後ろに跳ね上げられる(チルトアップ)仕組みになっているので、浅いところでは右図のようにギリギリまで上げて、そろり、そろりと艇を「歩かせ」るのです。

チルトの調整は、本来高速で滑走する際の、姿勢制御に使うらしい(申しわけない、よく知りませなんだ)のですが、私の場合はもっぱら、浅いところでの用心のために活用していました。
スクリュープロペラは、深いところにあってこそ、効率よく水をかく性質の推進器なので、図のように水面近くまで上げてしまうと、空気を噛んで空回りする恐れもあり、また軸線が上を向いて効率も落ちますから、最微速で回すほかありません。

まあ、何よりこんなに浅いときは、スピードを出す気になど、なれないのですが…。ちなみに、この方法で通過した最小水深は、魚探の測深値で0.4m。ペラやスケグをだいぶ擦りましたが無事突破、底質は砂だったので、事故には至りませんでした。

万止むを得ないときは、船外機を一杯に上げ、ボートフックやデッキブラシの柄でつついて脱出、という芸当もできるのですから、浅喫水の船体さまさまといったところです。(そろそろ、本格的な棹も欲しいですね。)

舶用エンジンは、陸上のエンジンと違い、冷却は周囲にある水を、吸入口から吸い込んで行っているので、浅いところでは泥などの異物を吸い込む恐れも大きく、そういう意味では、こうして浅いところを走るのは、あまりお勧めできるものではありません。

十数年前、江戸川を中心に攻めていた時期(過去の記事『平成7年8月・江戸川…1』ほか参照)は、空冷式の船外機とか、上部にラジエーターの付いた、循環式水冷の船外機(!)があったらいいなあ…などと、よく妄想したものでした。
のちに、北米の浅い湖沼を走る平底ボートで、まさにラジエーターのあるエンジンを載せたものを見たときは、ちょっとうらやましくなったものです。

このように、各部の寸法がわかっていれば、あとは潮汐推算グラフ海上保安庁海洋情報部)で潮時をはかり、水路誌や参考記事(過去の記事『通航ガイド2題』『久々に川走りの記事が!』参照)で橋の桁下高・水深を確認、念を入れてウェブ航空写真で、浅いところの澪筋をつかめば…。事前調査も万全、もう怖いモノなし!

…と、すんなりゆかない水路も、まだまだ多いのですが、それでもかつてに比べれば、内水の情報は、だいぶ豊富になってきました。
そうでない水路は、自ら陸路調査におもむくか、ぶっつけ本番で、文字通り橋や水底にぶつかるかどうか、行ってみるしかないのですが、良いほうに取れば、まだ当分は冒険気分が楽しめそう、ということでしょうか。

(写真は大横川、18年9月2日撮影)